自分の子どもの発達が、他の多くの子どもと何となく違うのでは、と思ったことのある保護者はたくさんいると思います。そんな保護者に、気軽に質問できる場を設けたいと有志が集まり、こんなイベントを企画しました。
「ヴァラエティ・カフェ」第1回 7月30日(土)午後1時~3時45分。東京・池袋。
内容は、情報提供として「発達の遅れと多様性」「相談できる機関・利用できる制度」さらにスペシャルゲストとして、前号のメルマガおすすめコンテンツ「数字と踊るエリ-娘の自閉症をこえて」の著者、矢幡洋さんがご自身の体験と娘さんのために考案したパフォーマンスを紹介してくださいます。
よろしければ、東京近郊の方はぜひご参加ください。発達障害児などのケアを専門にすするセラピスト等による託児も受付けています。
ヴァラエティ・カフェの詳細はこちら。pdf資料
http://www.ledex.co.jp/sharedfiles/v-cafe_leaflet.pdf
最寄りの駅、椎名町から会場までの地図はこちら。pdf資料
http://www.ledex.co.jp/sharedfiles/v-cafe_1st_map.pdf
「数字と踊るエリ-娘の自閉症をこえて」矢幡洋、講談社
http://www.bookclub.kodansha.co.jp/bc2_bc/search_view.jsp?b=2169150
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【目次】
(1)「見る」を高める・3
(2)小児発達医・まなみの診察室 第8話
(3)おすすめコンテンツ 映画「音符と昆布」
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(1)「見る」を高める・3
長崎県の公立LD通級指導教室の担当教師、増本利信先生の勉強会のレポートの最終回です。
今回は、週に何回かの通級教室でどのように支援が行われるのかを、具体的な事例を取り上げて紹介します。この子をB児とします。個人情報保護のために学年や性別などの情報は割愛します。
1.主訴
・文章を読むことが難しい(漢字)
・計算などの手順が、繰り返し学習しても定着しない
・学習内容は全般的に定着していない
・学習に対する意欲が見えにくい
2.アセスメント
まず、これらの原因となっている認知特性を把握するために、B児に日常的な活動をしてもらい、観察(インフォーマル・アセスメントの基本)を行います。さらに、認知テスト(フォーマル・アセスメント)を行います。
ア)観察
・平仮名を読むことが出来るが、漢字を読むことが出来ず、ルビふりを求めることが多い
・指で追い指ししながら読む、逐次読みが見られる
・日常会話及び対人関係は良好である
イ)認知テスト 特に弱い項目
・読み書きスクリーニング検査:カタカナ・漢字の書字、漢字の読み
・K-ABC:手の動作、数唱、言葉の読み
・WISC-3:算数、数唱、符号 VIQ:76 PIQ:68 FIQ:69
ウ)視覚能力を測る各種アセスメント
・左右の眼球の情報の受け渡しに、ぎこちなさが見受けられる
3.指導仮説
今後のトレーニングメニューを考えるために、認知機能と関連する眼球などの運動機能について、B児に関しての仮説を立てます。
ア)短期記憶
現在読んでいる部分と直前に読んだ部分、全体の流れなどの把持(はじ)が難しいため、単語として文字を認識することが難しいのではないか?
イ)追視・注視
滑らかに文字を追ったり、ひとところを注意深く見たりする、眼球運動の未熟さがあるのではないか?
ウ)処理速度
行末から行頭へ素早く視点を移動することや、文字と音の変換に時間がかかったりすることが、読みにくさに繋がっているのではないか?
4.P-D-C-A とそのための指標
仮説に基づき、計画を立て(Plan)、児童に取り組んでもらい(Do)、結果を確かめ(Check)、再度取り組む(Act)というP-D-C-Aサイクルで、一人ひとりのトレーニングを支援していきます。そのCheckの部分で簡単に取り組め記録できるアセスメント方法として、増本先生が B児に使用しているのが、DEMです。
DEM - Developmental Eye Movement TEST は、以下の内容です。
・縦の数字読みを2試行
・横の数字読みを1試行
・そのタイムと比率を測定
まだ、この検査は標準化されている訳ではありませんが、簡単かつ必要な、眼球運動を含む視覚認知のレベルが測定できる点が推奨できます。
5.所属教室へのフィードバック
子どもが通級指導教室で過ごす時間は限られていますので、増本先生はB児が所属する普通学級に、配慮してほしいことを伝えます。具体的にB児の場合は、以下の内容でした。
・拡大教科書を活用する。分かち書き、ルビ振り、句読点に着色して目立たせる。(事前準備をしてもらうため、特別支援教育支援員の活用を提案)
・型抜き紙を、平素の授業から使用する。(一度に見る部分だけを表示できます)
・視覚的な支援を重視し、板書は箇条書きなどに精選する。
・スケジュール帳を活用してもらう。
6.実際の学習の様子
この後、実際のB児の取り組みの様子をビデオで見せていただきました。以下のような多様な教材・教具が目的ごとに使い分けられており、感銘を受けました。
・ローテーション:チーズの板 斜視
・バランスゲーム:魚釣り 緊張が強く感じられる
・輻輳(ふくそう):キャッチボール 斜視の手術後の様子
・矢印体操:間違い探し 同時処理が苦手な様子
・粗大運動 前庭動眼反射
7.まとめにかえて
・目の前に見える困難の、奥に潜む課題に光を当てられるように意識して取り組んでいきたいと思います。
・改善・克服を求めるためには、まずは、改善・克服しやすい環境を整え、丁寧に接することが必要ではないでしょうか。
すべては、その子の将来の自立のために。
参考資料として、以下のものをお勧めします。
1.ブログ「西風~LDのお子さんとともに~」
http://nishikaze8.blog.fc2.com/
2.書籍「学ぶことが大好きになるビジョントレーニング」
北出勝也、図書文化
http://bit.ly/pHqfLo
3.書籍「学習につまずく子どもの見る力-視力がよいのに見る力が弱い
原因とその支援」玉井浩監修/奥村智人・若宮英司編著、明治図書
http://www.meijitosho.co.jp/detail/?isbn=4-18-061327-4
増本先生の資料の公開に際しては増本先生ご自身と、所沢・軽度発達障害児を支援する会「よつばくらぶ」に大変お世話になりました。改めて、御礼申し上げます。
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(2)小児発達医・まなみの診察室 第8話
前号で「認知特性」についてお話しました。人は自分が見たり、聞いたり、理解したり、感じたりするのと同じように、他人も見聞き、理解すると思いこんでいます。けれどそれは違うのです。
九九を例に取ってみましょう。九九を覚えるときに呪文のように口ずさんで覚える人、九九の一覧表を眺めながら覚える人、数字をひたすら書いて覚える人とその方法は様々です。その人の得意な方法で物事は脳内で処理されたり記憶されたりするのです。その処理の仕方を『認知特性』といいます。
前号では視覚優位の認知特性である私の夫の話をしました。我が家にはもう1人視覚優位者がいます。小学2年生になる息子です。息子も夫と同じように、目で見た情報を捉えることが非常に得意です。息子を8年間育ててみて、彼の認知特性は鍛えたり訓練された特性ではないと思います。何故なら主に彼の教育を担当してきた私自身が視覚優位者ではなく、彼と接していて非常に不思議に思うことが多いからです。
まだ認知特性というものを意識せずに、1歳の息子を育てていた頃のことです。キャラクターのシールが大好きな息子は色々な場所にシールを貼って遊んでいました。その貼り方は、決してランダムな貼り方ではなく、シールの大きさ順に左から貼られていたり、色別に分けられていたり、時には同じ大きさのシールを同心円状に貼っていることもありました。まだ言葉もおぼつかない頃から、ある規則をもって整列した貼り方は見事なものでした。
3歳頃になって戦隊物のフィギュアで遊ぶようになると、フィギュアを背の順で整列して並べていました。また絵を描くのも大好きで、年齢の割には立体的に構図出来ることも特徴的でした。
前号でお話ししたように、夫は類まれな方向音痴なのですが、息子は一度行った場所なら、その行き方を良く覚えています。二人とも地図を読むことはうまく出来ますし、左右の識別などの空間認知力も悪くないのに、同じ視覚優位者の夫と息子の違いはなんだろうと、ふと考えました。そして私なりに出した結論は、夫は2次元世界(絵や写真のような)での視覚入力が得意で、息子は奥行き感のある立体的な3次元世界での視覚入力を得意とするのではないかということです。
その証拠と思えるエピソードがあります。3歳になったばかりの息子と花火大会に行った時のことです。息子が夜空を見上げながら「花火は横から見るとどう見えるの?」と尋ねてきました。
私は30数年、毎年のように夜空の花火を眺めていましたが、花火の奥行きを考えたことはありませんでした。むしろ花火を2次元的にしか捉えていませんでした。多くの花火は球体であり、どこから見ても同じように丸く見えるようになっていることを、3歳で気づく息子は、やはり生まれながらの3次元世界の視覚優位者といえそうです。
また息子は人の顔を覚えることがとても得意です。以前、発達障害児の診療で権威であられる私の恩師が、人の顔や表情の認識は3次元イメージによるものではないかという説を教えてくださいました。目、鼻、口を立体的に認識し、口角と鼻頭の高さの違いや距離、目の垂れ具合などを判断することで表情を読み取ったり、顔の個体識別をするというのです。息子は一度会った人の顔をすぐに覚えられるようです。私は昨日初めて会った人の顔を、翌日会えばもちろん認識できるのですが、目の前にいないその人の顔を、翌日頭の中で想起することができません。ホクロやメガネといった特徴は思い出せますがその人の表情よりも、着ていた洋服や、名刺に書かれた名前の文字の方が私には想起しやすいのです。
次号では視覚優位者の夫と息子に対比して、言語優位者の特徴をお話ししたいと思います。
ちなみに人の顔が3次元イメージと言いましたが、自閉症スペクトラムの方で他人の表情が読み取れない人は3次元イメージ認識が弱いためではないかという仮説もあるようです。
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(3)おすすめコンテンツ 映画「音符と昆布」
市川由衣演じる小暮ももが、ノックの音でドアを開けると、風変わりな格好をした女が立っていました。「小暮かりん、25歳です」と名乗り、そのまま家に上がり込んでしまいます。
かりんは、ももが2歳の時から母親によって別の場所に移され、母親が死んでからは、一人きりで施設に通いながら生活していました。幼少の頃に自分がうつしたインフルエンザのせいで妹が嗅覚をなくしてしまったと信じる姉は妹を慰めるための子守唄を作曲しており、それを聞かせるために、妹を訪ねてきたのです。
かりんはアスペルガー症候群という設定です。アスペの特徴である、他の人の気持ちを汲み取れない振る舞いで妹は傷つけられながらも、唯一の姉妹である姉を次第に愛しく思うようになっていきます。
姉は、離れて暮らす父親が訪ねてきて一緒に外出する度にポラロイド写真で街灯を撮りました。かりんにとっては、写真1枚1枚が「音」の記憶で、そのつながりで子守唄を作ってきたのです。ところが以前、写真を1枚なくしてしまい、そのことで曲が完成せず、苦しんでいました。なくした写真を説明するために描いたスケッチで、妹はその写真の場所が、かつて姉妹が暮らした家のそばの風景であることを知りました。それなら同じ場所でもう1枚写真を撮ろうと出かけてみると、その一帯はすべての建物が取り壊され、グランドになっていました。妹はなんとグランドのど真ん中に街灯を立てようと一計を案じます。
美しい音楽と印象的な過去の場面の画像のフラッシュで、姉妹の過去と現在が交錯する美しい作品です。アスペ(自閉症)の特徴である聴覚過敏、こだわり、対人関係の困難などのエピソードが丁寧に織り込まれ、発達障害の理解の教材としての側面もあります。父親役の宇崎竜童の演技も見ものです。
映画「音符と昆布」、脚本・監督:井上春生、主演:池脇千鶴、市川由衣。
2008年1月公開。レンタル。最近は井上監督の好意により、被災地支援として特別公開されることがあります。
http://www.onkon.jp/index.html ←音が出ますのでご注意。
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次回メルマガは、7月29日金曜日となります。
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