インリアル・アプローチで豊かなコミュニケーション

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2011.01.07

インリアル・アプローチで豊かなコミュニケーション

今日は1月7日、松の内の最後の日で松飾りを片づける日です。ただ時間の流れは年々早くなり、現代はもうすっかり普通の日になっていますね。

昨年末24日に、文部科学省中央教育審議会の特別委員会が、特別支援教育の在り方について「論点整理」を取りまとめ、これについての意見を公募しています。今後の議論に、国民の意見を反映しようという試みですから、下記ページを参照して、ご意見を文部科学省に送られてはいかがでしょうか?
意見は、1月23日必着で、電子メール、FAXまたは郵送のいずれかです。

http://www.mext.go.jp/b_menu/houdou/22/12/1300850.htm

では、2011年最初のメルマガ、どうぞご笑覧ください。

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【目次】
(1)インリアル・アプローチで豊かなコミュニケーション
(2)mayaさんの「スクールカウンセラー奮闘記」11
(3)おすすめコンテンツ「発達障がいが気になる子を伸ばす育て方」

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(1)里見恵子講演:インリアル・アプローチで豊かなコミュニケーション

昨年8月29日に、大阪府私学教育文化会館で行われた第2回星槎教育研究所セミナーのレポートです。星槎教育研究所は、発達障がい等に関して積極的な取り組みを行っています。

http://www.seisa.ed.jp/npo/seminar2010.html#2

講師は、里見恵子・日本インリアル研究会会長。大阪府立大学人間社会学部准教授です。インリアル・アプローチとは、発達障がい等の子どものコミュニケーション特性を知り、他の人とコミュニケーションできるよう成長するように「周りの大人が援助の仕方を学ぶ」手法です。

インリアルは、INREAL:INter REActive Leaning and Communicationの略です。発達障がいに関する重要な知識や情報を、数多く紹介してきた竹田契一・大阪教育大学名誉教授と里見先生が日本の実情に適合させながら発展させてきたといってよいでしょう。

コミュニケーションは、相手が受け止めないと成立しません。ビデオ等を使って、子どもとやり取りをする「周りの大人の、対応における問題点」を発見し、それを解決するための10種類の技法を学ぶのが中心です。

インリアル・アプローチのポイントは、
1)子どもをありのままに受け止める。
2)子どもに「反応的」にかかわる。
3)狙いを持ってかかわり、子どもの言語とコミュニケーションを育てる。
というものです。

その基本姿勢は、SOUL。
Silence: 静かに見守る。
Observation: 興味や遊びを観察する。
Understanding: 気持ちや発達レベルを理解する。
Listening: 言おうとすることに心から耳を傾ける。

そして、インリアルのことばかけ10の技法は、以下の通りです。
1)ミラリング: 行動をまねる。
2)モニタリング: ことばをそのまままねる。
3)リフレクティング: 子どもの発音や文法の間違いを直して聞かせる。
4)セルフトーク: 自分(援助者)の行動や気持を言語化する。
5)パラレルトーク: 子どもの行動や気持を言語化する。
6)エキスパンション: 一語文を二語文にするなど、拡充して返す。
7)モデリング: 子どもが言うべき言い方でモデルを示す。

ここまでの7つが米国コロラド大学オリジナルです。後3つは、日本で考えられたもので、3歳児以降に適用されます。

8)ト書き発言: 脚本のように、前提となる状況を補足して説明する。
9)限定質問: 選択肢を挙げて質問するなど、回答にヒントを与える。
10)提案: 提案することで、遊びや話題を先に進むのを促します。

参考文献を2冊、紹介しておきます。竹田契一先生については後日、機会を設けて、メルマガでとりあげたいと思います。

「インリアル・アプローチ 子どもとの豊かなコミュニケーションを築く」
竹田契一・里見恵子編著、1994年11月発行、日本文化科学社、
A5判176ページ 2240円(税別) http://bit.ly/hB7NNb

「実践インリアル・アプローチ事例集」
竹田契一監修、里見恵子他著、2005年8月発行、日本文化科学社、
B5判228ページ 2700円(税別) http://bit.ly/eucJpa

なお後者は、Googleブックスの下記Webページで、全文を読むことができます。
http://bit.ly/gQCqeH

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(2)mayaさんの「スクールカウンセラー奮闘記」11

<これまでのあらすじ>
小学校1年からずっと教室に入れず、休み休みながら保健室への登校を続けてきたA子。中学校に入学し、なんとか教室登校からスタートしましたが、2学期からは教室に入ることが難しくなり、校内の別室「ふれあい教室」から少しずつ授業への参加を始めました。1年3学期が終了する頃には、午前中の授業に、すべて参加できる程度の持久力がついてきました。2年生になり少しずつ自分と向き合い始め、進路を考えるようになりました。3年生の5月、専門学校をめざすため、まずはオープンスクールに参加する取り組みを進めていく様子を紹介します。

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3年生の5月、A子と両親が話し合い、めざす学校が決定した。それは通信制高校のサポート校を兼ねる専門学校で、1学年が10名以下の少人数である。
まずは6月に開催されるオープンキャンパスに参加することを目指して取り組みを始めた。日程を確認し、A子と母親がいっしょに参加する行動予定を作成していた。しかし、A子が当日が迫ってくると「行けない!」と言いだした。面接の中でA子に聞いてみると、「新しいクラスメイトと仲良くやっていく自信が無い」と話し出した。新たな世界に入ることへの不安が大きく膨らんでいた。

SCはA子との面接を繰り返した。その面接の中で、新しい学校に入る時には、どんなクラスメイトといっしょになるのかも分からないことに、誰でも不安を感じている。だから誰でも、自信なんて持てないことを説明した。入学してくる生徒のみんなが、不安な気持ちで集まって来る。それで、みんなは新しく友達を作ろうと考えているだろうと話した。

A子は依然として不安感を抱えていたが、それをできない理由にすることはなくなった。SC・指導員といっしょならオープンキャンパスに参加することができると話すようになった。予定を変更して、専門学校との連携の話し合いも兼ねて、SC・指導員がA子を引率することにした。これで何とかオープンキャンパスに参加することができた。

A子にとってオープンキャンパスに参加することは、見学することよりも、専門学校のスタッフや生徒から、自分がどのように見られるだろうか?という不安が大きかったようです。発達障害を抱える子どもには、このような感情をコントロールする力が、まだ充分に育っていない場合があります。可能な場合には、今回のように環境調整することで“大丈夫だ”と感じる体験する機会(刺激)を与え、それが感情をコントロールする力を育むことにつながっていると思います。これは見方を変えると、我慢するという“耐性”を、体験的な刺激の中で身につける練習をしているといえます。

次回は、A子が専門学校への受験に向かって、筆記試験への準備を進める取り組みの様子を紹介してゆきます。
(文責:maya)

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(3)おすすめコンテンツ「発達障がいが気になる子を伸ばす育て方」

多様な個性をもつ子どもがいることで起きる教室での混乱に経験豊かな達人たちが対処方法を提案した書籍「クラスで気になる子の支援-ズバッと解決ファイル」金子書房。それを全国各地で公開で行う「ズバッとLive」さらにWebサイト「電脳ズバ」など、一連の展開を中心として推進している阿部利彦氏の最新の著作です。

阿部氏の本業は埼玉県所沢市教育委員会学校教育課健やか輝き支援室の支援委員。学校だけで解決できないと判断された時に、市教委から派遣され対処を行う専門員です。以前、お目にかかった時にお聞きしたところによると、学級崩壊などが話題になる前から、生徒の非行対策などでたくさんの学校を訪問し、現場での対処に携わってきたとのことでした。

それらをベースとして到達した理念が、副題の、気づいてほしい!子どもの「いいところ」に表わされています。その考え方は、交通事故の脳外傷等で発症する高次脳機能障害のリハビリに長く携わった橋本圭司医師(国立成育医療研究センター)の認知リハビリの方略とぴったり重なります。

本書は3部から構成されています。(以下は原表現でなく、筆者の要約)
Part1:発達障がいの各タイプの情動の特徴
Part2:タイプ別の教室での言葉かけ
Part3:家庭でのヒント

Part1では、LD、ADHD、アスペルガーに加え「オリジナル発達」の項を設け一人ひとりが異なる、感覚の鋭敏さについて解説しています。

Part2は本書のメインで、準備などしなくてもでき、また、機会も多い言葉かけの様々なノウハウを解説しています。ほめる、しかる、という重要なコミュニケーションを、如何に、様々な個性をもった子どもの心に届けるかを学ぶことができます。

Part3では「心のストライクゾーン」や「ごほうび」システムなど、家庭ならではの子どもへの具体的対応を紹介しています。

残念ながらこの本は、書店店頭にはおかれず、ネット等で出版社から直接購入する方式とのことです。出たばかりなので、横浜市中央図書館など大きな図書館にも入っていないようです。後述PHPのページで「はじめに」3ページと目次が読めますので、参考になさってください。

「発達障がい」が気になる子を伸ばす育て方 -- 気づいてほしい!子どもの「いいところ」 http://www.php.co.jp/family/detail.php?id=77869

阿部利彦著、2010年12月発行、PHP研究所、A5判208ページ、1900円(税別)

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1月29日(土)に、神奈川県大和市で第2回こども発達支援シンポジウムが開かれます。発達に遅れや心配のある子ども一人ひとりが、幸せに、すこやかに育つために、私たちにできることは何かを議論します。

登壇は、滝坂信一・東京農大教授、大貫俊章・市立中学特別支援学級担当、館合みち子・NPO地域家族しんちゃんハウス理事長、藤森省吾・大和市自閉症児・者親の会、向山眞知子・知的障害児通園施設副園長です。親の会と発達支援に関わる機関のパネル展示もあり、こども脳機能バランサー・タッチを施設内で活用してくださっているNPOピコピコ様が、タッチの実演をしていただけます。

http://www.city.yamato.lg.jp/web/katei/shinpo.html

次号は、1月21日(金)の予定です。
本年も引き続き、メルマガをご愛読くださいますようお願い申し上げます。

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