アルジャーノンに花束を

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2010.09.10

アルジャーノンに花束を

9月に入り、めっきりと過ごしやすい日が続くようになりました。
台風で、大雨に見舞われたところには申し訳ないですが、冬野菜の作付が、ようやく可能になった、という声も聞こえてきます。

では、猛暑が終わって最初のメルマガをご覧ください。

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【目次】
(1)子どもの認知発達を応援する機関・3
(2)mayaさんの「スクールカウンセラー奮闘記」3
(3)おすすめコンテンツ「アルジャーノンに花束を」

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(1)子どもの認知発達を応援する機関・3

このシリーズの最後に、子どもの認知発達に関連する代表的な3つの専門機関を紹介します。

●療育センター

自治体や社会福祉法人等に設立され、乳幼児の支援を行います。大別して、診療と療育部門がありますが、形態や機能はセンターにより様々です。
利用に際してまずは診療部門で診察を受けます。各種の検査をして、診断が出されると、そのセンターで、または、紹介する別の機関で、リハビリや療育を行います。

また、療育センターの重要な業務に、発達障害についての療育手帳の認定があります。この療育手帳の認定によって、福祉や行政サービスの利用が可能となります。つまり発達障害の支援を活用する場合の窓口的な存在です。

療育センターの機能の一例として、障害のある乳幼児の早期診断と支援を、早くから行っている北九州市立総合療育センターのWebページから主要サービスを紹介します。
http://members2.jcom.home.ne.jp/ryouiku/sogo_r/

(1) 入院・入所サービス‥‥評価やリハビリテーション(母子、単独)、医学的治療、生活の場、生活支援を提供します。
・保険入院
・契約入所(肢体不自由児施設・重症心身障害児施設)
・宿泊ショートステイ

(2) 通院、通園サービス‥‥リハビリテーション、医学的評価・治療などを行います。
・外来診療・リハビリ
・総合通園(0歳から就学までのお子さんの通園療育)
・デイケア(「ナイスデイ」15歳以上の方の日中活動)
日帰りショートステイ

(3) 相談サービス‥‥あらゆる相談・支援を行います。
・地域支援室
・発達障害者支援センター「つばさ」

(4) 訪問サービス‥‥保育士、看護師、理学療法士、作業療法士などによる生活の場での支援を行います。
・家庭訪問
・保育所、幼稚園、学校等の支援

全国の療育センター及び関連する情報を、宮城県がまとめている下記ページがとても参考になります。
http://shoufukumemo.com/zenkoku/hospitals.htm

●児童相談所

児童福祉法に基づいて、都道府県、政令指定都市、中核都市に設置されているのが児童相談所です。対象は18歳未満の子どもで、全国に201か所(平成21年5月時点)あります。

目的は、子どもに関する家庭その他からの相談に応じ、子どもが有する問題又は子どもの真のニ-ズ、子どもの置かれた環境の状況等を的確に捉え、個々の子どもや家庭に最も効果的な援助を行い、子どもの福祉を図るとともにその権利を擁護することです。(厚生労働省運営指針より)

具体的な活動は相談援助活動とされ、主な相談業務が上げられています。

(1) 養護相談
家庭環境が子どもにとって適切でない場合、相談に対応する。
特に虐待が疑われる場合、調査、判定などをし、必要な手続きをとる。

(2) 障害相談
身体の状況、精神発達の状況や情緒の状態、保護者や子どもの所属する集団の状況等について調査・診断・判定をし、必要な援助に結びつける。
医学的治療が必要な場合には、医療機関等にあっせんするとともに、その後においても相互の連携に留意する。

(3) 非行相談
子どもだけに焦点を当てるのでなく集団全体を対象とし、関係機関と連携して対応する。

(4) 育成相談
性格行動、しつけ、適性、不登校等に関して、生育歴、性格や欲求の状態、親子関係や近隣、所属集団等との関係を調査・診断・判定する。
継続的な援助が必要な場合には、子ども、保護者に対し、問題解決に対する動機付けを行い、ソーシャルワーク、カウンセリング、心理療法等の技法による援助を行う。

(5) いじめ相談
子どもや保護者への援助を行うとともに、いじめの原因、態様、程度に応じて、学校や教育委員会と連携し、必要に応じ、医療機関、警察とも協力をして対応を進める。

厚生労働省:児童相談所運営指針
http://www.mhlw.go.jp/bunya/kodomo/dv19/01-01.html#02

厚生労働省:児童相談所一覧
http://www.mhlw.go.jp/bunya/kodomo/dv30/index.html

●発達障害者支援センター

2004年の発達障害者支援法に基づき、都道府県と政令指定都市に設置された、発達障害児(者)への支援を総合的に行うための専門的機関です。自治体や社会福祉法人、NPO等が運営し、発達障害児(者)とその家族が豊かな地域生活を送れるように、保健、医療、福祉、教育、労働などの関係機関と連携し、地域における総合的な支援ネットワークを構築しながら、発達障害児(者)と家族からの様々な相談に応じ、指導と助言を行っています。

やはり同法に基づき、発達障害に関する調査研究を行い、情報を発信するために発達障害情報センターが2008年に開設されました。そのWebページによれば、発達障害者支援センターには4つの役割があります。

(1) 相談支援
発達障害児(者)と家族、関係機関から日常生活でのさまざまな相談(コミュニケーションや行動面で気になること、保育園や学校、職場で困っていること)などに応じます。また、必要に応じて、福祉制度やその利用方法の紹介や、保健、医療、福祉、教育、労働などの関係機関への紹介も行います。

(2) 発達支援
発達障害児(者)と家族、周囲の人の発達支援に関する相談に応じ、家庭での療育方法についてアドバイスします。また、知的発達や生活スキルに関する発達検査などを実施したり、発達障害児(者)の特性に応じた療育や教育、支援の具体的な方法について支援計画の作成や助言を行うこともあります。

(3) 就労支援
就労を希望する発達障害児(者)に対して、就労に関する相談に応じ、公共職業安定所、地域障害者職業センター、障害者就業・生活支援センターなど労働関係機関と連携して情報提供を行います。必要に応じて、スタッフが学校や就労先を訪問し、障害特性や就業適性に関する助言を行うほか、作業工程や環境の調整を行うこともあります。

(4) 普及啓発・研修
発達障害をより多くの人に理解してもらうために住民向けの講演会を開催したり、発達障害の特性や対応方法などについて解説したパンフレット等を作成し、配布することもあります。また、関係機関の職員や、都道府県及び市町村の行政職員を対象に研修を行います。

発達障害情報センター(国立障害者リハビリテーションセンター)
http://www.rehab.go.jp/ddis/

各地の発達障害支援センター相談窓口
http://bit.ly/bskoZ7

参考文献:はじめての特別支援教育、柘植雅義他編、有斐閣

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(2)mayaさんの「スクールカウンセラー奮闘記」3

<これまでのあらすじ>
小学校1年からずっと教室に入れず、休み休みながら保健室への登校を続けてきたA子。A子はいよいよ中学校に入学することになりました。A子の母親とは6年2学期に面接をし、それ以来、この時に備えてきました。

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入学式への出席、そして教室へとA子は登校を開始しました。全く何ごとも問題が無かったかのように4月の間は登校を続けました。スクールカウンセラー:SCの出る幕はありません。それでも昼の休憩時間に、教室の前の廊下でA子を待ち受けて話しかけました。

「こんにちは、この中学校のSCのmayaです。今は顔だけでも覚えていてくださいね」と話しかけました。A子は会釈だけして立ち去りました。そんなに嫌な顔はされなかったかなと思いつつ、どうやってこれから支援していこうかと頭を抱えていました。5月の連休が明けた頃から、時々欠席が始まりました。そこで放課後に面接室にA子に来てもらうことを、担任に頼みました。欠席が多いので健康観察のためということでお願いしました。

A子は約束の時間に面接室に現れました。「朝は何時に起きましたか?」と聞くと「6時30分頃」と返事をしてくれました(実は、この日A子は遅刻して登校していました)。続いて「夜は何時頃に眠れましたか?」と聞くと「24時は過ぎて1時にはなっていなかった」と応えてくれました。私から「睡眠時間は足りてる感じ?足りない感じ?」と聞き返すと「本当はもっと寝ていたい。でも、学校があるので間に合うように起きている」とのこと。「頑張って朝早くから起きているね。それでも学校に間に合うように来るのは大変なんだね」と声をかけると。「準備がうまくいかない時や、時間が足らない時もある」と教えてくれました。「それは大変だ。準備もしないといけないし、時間も過ぎて行くんだね。何とか学校に間に合うように登校できたらいいなあーとは思いますか?」と重ねて聞くと「はい」と即答。A子自身は遅刻せずに登校したい意思が確認できたので、「いっしょに取り組んでみませんか?どうしたら学校に間に合うように登校できるか!」と声をかけた。A子は気は進まない感じではあったが、SCといっしょに取り組むことには応じてくれることになりました。

母親から詳しく聞くと、A子は毎朝、同じ手順で朝の身支度を行っている。淡々と身支度を整えていくのだが、時には髪に寝ぐせがついたり朝起きるのが遅かったりしても、いつも通りに身支度を進めていくのだそうだ。「今日は少し早くしなさい!」と言っても結局同じ時間をかけてしまう。臨機応変が難しいという話でした。

A子は次の面接予定の時間に正確にやって来ました。話をしてみると、とても純粋で真面目な性格が伝わってきました。学校は行くべきところだという意識も、しっかり持っています。でも自分から周りに話しかけることができません。いつも受け身です。やはり想定していたように、対人関係でのコミュニケーションが難しいこと、状況と時間の見通しが立てられないという状況が明らかになりました。A子は懸命に頑張っているのに、一般的なペースとズレているので、うまく噛み合わないといった印象です。アスペルガー症候群の人が持つ、日常生活の中で手順通りやらないと気が済まない「儀式」と呼ばれる、こだわりを示す特徴の1つです。

このようなA子の状況に対して、時間の見通しは持てなくても注意力の配分と情報処理能力を高めることで、方略的(戦略的)に対応できる能力を習得することを目指すことにしました。そこで認知訓練を手軽に自己学習で取り組める「こども脳機能バランサー」を活用することにしました。

次回はA子が教室に居づらくなった様子と、面接の取り組みの中で、こども脳機能バランサーを使用する様子を紹介していきます。

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(3)おすすめコンテンツ「アルジャーノンに花束を」

12年ぶりの新作「預言」で話題になっているダニエル・キイス。「アルジャーノンに花束を」は、1966年に長編小説として発表され、映画や演劇になるなど、大きな注目を集めた小説です。チャーリイという32歳の知的障がい者が脳手術を受け、認知機能が短期間で飛躍的に伸び、多方面の分野の知識を得て、天才と呼ばれるまでになります。ただ、ある時から認知機能の低下が始まり、最終的には手術前よりも重度の障害者になるというストーリーです。

同作者による「24人のビリーミリガン」はノンフィクションですが、これはキイスが収集した様々な情報を膨らませてまとめたフィクションです。ただ、作品の中でのチャーリイの行動や感情は、私の拙い知識や経験からも広汎性発達障害や高次脳機能障害の方々のそれに極めて近いのでは、と思わされ、障がいの方たちの苦しさや悲しみを感じさせられます。

あらすじを書くのは私の紹介の流儀ではありません。ただ、私自身、冒頭のチャーリイの書くメモを読むところで何度か挫折した経験から、ストーリーの面白さを感じてもらい、読み通すきっかけにしてもらえればと思い、書かせていただくことにしました。

知的障がいの時代、意地悪をされたりしながらも、それを感じないで(無意識に目をつぶるようにして)パン工場の補助作業をしながらチャーリイは平穏に過ごします。知能を高めることができれば、家族が喜んでくれる、と信じ、知的障害成人センターに通います。

センターの女性教師、キニアンの助言もあり、ある大学教授の実験治療(脳手術)を受けます。先行して手術を受けたねずみ、アルジャーノンともども、急速に知能を高め、多方面への興味を持ち、様々な分野で能力を開花させていきます。

ところが、チャーリイが高い知性を得るにつれ、周りにいた人々はチャーリイに対して劣等感を覚え、去っていきます。キニアンだけはチャーリイにひかれ、チャーリイもそれに応えようとしますが、チャーリイの心の中にすむ元のチャーリイが邪魔をして二人は結ばれることができません。一方チャーリイの過去を知らない奔放な女性アリスが接近し共に暮らすようになります。

大学教授の能力を大きく超えたチャーリイは、自分と同じ境遇の人たちを救おうと、実験治療の完成に取り組みます。その過程で、アルジャーノンの異常行動と死に接し、この治療に欠陥があることを知ります。認知機能は急速に高まりますが、ある時点から同じ速度で退化が始まり、最後は治療前よりも低い状態に至るのです。

それを知り、また、自分の認知機能の低下を肌で感じながら、チャーリイは苦しみます。そんなチャーリイからアリスは去り、チャーリイはキニアンと一旦、暮らすようになりますが、やがて自らキニアンを遠ざけます。

記憶力も大きく低下したチャーリイはある日、知的障害成人センターに行きます。教室にいるチャーリイを見て、泣き出した教師キニアンの様子で、治療を受けてからキニアンと過ごしたことを突然思い出します。そして、治療の代償として用意されていた重度障害者施設に行くことを決心します。キニアンと暮らしたアパートの庭に埋めたアルジャーノンに、時には花束をと書き置きを残して、、、

小尾芙佐訳、早川書房ダニエル・キイス文庫 定価861円(税込)

日本でテレビドラマ化されたビデオ全編がYouTube動画で見られます。
フジテレビ:2002年10月から放映 54分、全11回
出演:ユースケ・サンタマリア、菅野美穂、いしだあゆみ他
http://videonavi.blog66.fc2.com/blog-entry-409.html
※上記ページで、Pandora01をクリック。

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子どもの認知発達を応援する機関シリーズは今回で終わりです。
ご感想、ご意見をぜひお寄せください。

今月の末に、東京ビッグサイト、国際福祉機器展に出展します。
http://www.hcr.or.jp/exhibition/index.html

橋本圭司先生のワークショップも10月1日にあります。よろしければお運びください。

では、9月24日(金)に!

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