Kaien創業記 スタッフの離反 知的障害者(児)向けのICT機器

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2024.11.08

Kaien創業記 スタッフの離反 知的障害者(児)向けのICT機器

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■   連載:スタッフの離反
■□  連載:知的障害者(児)向けのICT機器(現代)
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■ コラム:連載 Kaien創業記
                  第5回 スタッフの離反
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2010年4月の訓練スタートまで3ヶ月。ゼロから訓練プログラムを作らないといけません。それを任せたのは、ミッションに共鳴してくれ、フルタイムで1月から働いてくれたソフトウェアエンジニアです。私はITの素人でしたので、彼にすべてをお願いしました。
私は営業の担当。これまではIT事業を引き受けてくれる顧客を探しましたが、今度は当社のプログラムを修了した人たちを雇用してくれる会社を探し始めました。もう一人のスタッフ、臨床心理士はパートタイムで訓練プログラムや営業の際に発達障害の知見が必要な際に助言を行なう担当をしてくれました。ようやく会社が事業を行なっているような気配になって来ました。

しかしすぐにほころびが出始めました。スタッフが私と険悪な関係になり始めたのです。私は発達障害の人をすべて受け入れることを会社の設立時に決めていました。この人達のために一生を捧げようと思っていたからです。実はIT担当のスタッフは発達障害の診断を受けている当事者でした。それをオープンにしてエンジニアをしている彼を知り、口説いて当社に入ってもらったのです。その彼が、Kaien、すなわち私には発達障害の理解や配慮が足りないと言い始めたのです。私は理解するために全力をつくすつもりでしたが、当事者から配慮が足りないと言われたら、それは受け入れないといけません。ちょっとした言葉遣いや態度、会社のルールなど、あらゆる所で言われるクレームにいちいち答え、謝罪し、変更を加えました。

そのうち彼は出社しなくなりました。週に1度会社に来ればよい方でした。自宅で訓練のプログラムを作ってもらっている筈でしたが、1ヶ月たっても、2ヶ月たっても、成果物が出て来ませんでした。

チュルさんも心配して週に一度どころではなくミーティングをするようになりました。臨床心理士のスタッフも交えて、一体どうすればきちんと働いてくれるのか、試行錯誤が続きました。掛ける言葉を変えてみる、伝える内容によって直接、電話、メールなど方法を変えてみる、勤務の形態を変えてみる、ゴールまでのステップを幾つか提示してみる、インセンティブを変えてみる、いろいろなことを試しましたが、事態は悪化するだけでした。

「発達障害の人のために作った会社で、講師だけはということで発達障害の診断を受けているエンジニアを雇えた。ただその人を上手に働かせることができなかった。そんな段階で職業訓練をして他の会社に送り込むことができるのだろうか?Kaienは発達障害の人を活かす場所で、苦しめる場所ではないのではないか?」

目標と矛盾した現実に日々胸が苦しくなりました。一方でやはり発達障害の人だと、教えることや管理することなど自ら目標を立てて周囲のバランスを見ながら、成果物を試行錯誤の中で創り上げていくのは難しかったのかと感じ始めていました。発達障害の多くの人は、ルールがありマニュアルが整っている所では圧倒的な力を発揮します。管理職が良ければ指示されたことはしっかり動きます。しかし前例のない、状況変化を感じ空気を読みながら働くのは苦手な人なのです。しかも上司は元アナウンサーで管理職の経験すら無い私。悪条件の中で先の見えないトンネルに入れてしまったようなものです。自分の管理能力と、発達障害の特性を信じすぎたことが失敗だったかも知れません。

彼には3ヶ月でKaienを去ってもらいました。この時の決断もチュルさんとじっくり相談しました。「確かに発達障害の人を雇うのが目的だけれども、もっと大きな目的もある。一人を雇用することで失敗しても次があるし、ここでこだわって会社ごとケイタさんも倒れたら元も子もない。去っていただくことは残念だが、しっかりと学んでいこう。」そういったことをチュルさんに言ってもらってようやく踏ん切りがつきました。

自宅作業で概ねできていると彼が言っていた訓練資料や中身は、蓋を開けてみるとほとんどなにもできていませんでした。お願いしていた5%もできていない状態でした。しかし4月12日には訓練の第1期生3人が入ってきます。あれほど行政の人に頼み込み、いじめられてもつかんだ3つの枠です。どのように訓練を行なっていけばよいのであろうか?まずは知り合いに電話をし、メールをしました。

幸運なことに、その時は数日で候補が見つかりました。20年ほどソフトウェアのテストエンジニアとして活躍した女性が4~6月の訓練の期間中手伝ってくれると快諾してくれました。前回の失敗もあり、発達障害とはまったく関係のない人、つまり当事者ではない人にしました。講師料は1日あたり1万円。彼女の経験を考えると低すぎるオファーですが、1ヶ月に10万円ほどしか稼ぎのない会社の窮状を理解し受け入れてくれました。

4月12日、発達障害の特性のために就職できないことで困っていた3人の訓練生がKaienにやって来ました。いずれも30歳代の男性です。私の目標は決まっていました。どんなことが起きてもこの3人を就職させよう、とみんなに伝えました。

初めの2週間は無事に過ぎ去りました。しかし、ゴールデンウィーク直前の4月末。講師をお願いしたばかりの人からメールがありました。「講師を辞めさせてくれ」という内容です。順調に行っていると思っていただけにショックは1回目の時よりも大きいものでした。なんとか時間をもらい、麻布十番の事務所で話をする機会を持ちました。連休後も続けてもらえるように訴えるために、また、そのために必要なことは全てすると伝えるためにでした。でも、彼女の憤りは想像を遥かに超えていました。訓練の資料が揃っていると思って受けたがまったく揃っていないこと、管理職として私の力が足りず、なにを指示されているか分からないので働けないこと、あとは個人攻撃のように私の資質についての不満を爆発させました。

「これまでいろいろな所で働いたがあなたほどの無能はない」
「年齢は関係ない。25才ぐらいで数百人を回せる人はいる。あなたは違う」
「MBAでなにを学んできたのか?」
「発達障害についても理解が薄いのでは?だから一人目の講師は呆れたのではないか?」
「あなた自身が発達障害ではないか、それほど私の心も周りの人の心もわかっていない」
「臨床心理士のスタッフも、あなたがおかしい、発達障害だと思って心配している」
「状態は深刻。病院で療養すべきではないか?あなたの発達障害を緩和させるべきでは」
「会社を経営している場合ではない、私たちは心配している。はやく病院に行きなさい」

こういうことを言われて、他の人はどういう対応をするのかよくわかりません。ただその時私には選択肢はひとつしかないように思えました。言われていることを受け止め、ひたすら講師をお願いすることです。他に講師が見つかる可能性はありませんし、今訓練を辞めることはすべてを否定することにつながると思いました。とにかく訓練生3人が信じて来てくれている。訓練は続けないといけない。1期生が終わるまではなんでもするのでお願いしますと伝え、なんとかOKをもらいました。

そのあと、私は会社にほとんどよりつけませんでした。社長が出入り禁止になるというお恥ずかしい状態です。自分の会社なのに行くと、講師の人から追い立てられます。アスペルガーのお前がなにをしにきたのかという感じでした。会社設立の時に入ってくれていた臨床心理士でさえも、いつの間に彼女の味方になっていました。会うと私のことを「発達障害」として鼻で笑っているように感じました。

1期の訓練が終わるまでの残りの2ヶ月は地獄でした。たしかに、講師の彼女からすると、訓練資料はほとんど用意されていないですし、使用予定の教科書だけが一冊あって、ソフトウェアテストを教えてください、というむちゃくちゃなオーダー。怒るのはわかりますが、それにしても社長を閉めだしての訓練になるのは本当に悔しかったですし、情けなかったです。ただ、私が訓練所によりつかなかったことでそれ以上の事態の悪化は防ぐことができました。
無事3ヶ月間、彼女は講師を務め上げてくれたのです。日々のメールでの日報で、私も訓練生の状況がある程度把握できました。講師の彼女からもメールでの連絡は来ていました。それだけでなく資料を整え、次の訓練に向けた助言もまとめておいてくれました。2期以降の訓練プログラムを作成するうえで、この資料は大変役立ちました。

7月初旬。なんとか1期の訓練が終了しました。チュルさんとも話し合い、手は決めていました。臨床心理士の人にも会社を去ってもらい、今回トラブルの元凶になった講師の女性にも会社を去ってもらいました。なんだかすっとしました。会社をたたむことまで考えましたが、なんとか2ヶ月我慢してよかったと思いました。2ヶ月間続いていた頭痛や不眠も解消しました。私自身メンタルは強いと自負していましたが、罵られること、いじめられることの怖さを感じました。よい経験だったと前向きに考えました。

◆鈴木慶太
株式会社Kaien代表取締役
長男の診断を機に発達障害に特化した就労支援企業Kaienを2009年に起業。これまで1,000人以上の発達障害の方の就労支援に現場で携わる。日本精神神経学会・日本LD学会等へ学会登壇や『月刊精神科』、『臨床心理学』、『労働の科学』等の専門誌への寄稿多数。著書に『フツウと違う少数派のキミへ: ニューロダイバーシティのすすめ』(合同出版)、『発達障害の子のためのハローワーク』(合同出版)、『知ってラクになる! 発達障害の悩みにこたえる本』(大和書房)など。元NHKアナウンサー。東京大学経済学部 2000年卒・ノースウェスタン大学ケロッグ経営大学院 2009年修了(MBA) 。星槎大学共生科学部通信制課程特任教授。

 
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■ 連載:福祉・特別支援教育におけるICT機器
     ~過去から未来へのICT機器の活用を考えてみよう~
       第3回 知的障害者(児)向けのICT機器(現代)
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知的障害者への支援では、ICTの活用が重要な役割を果たしています。ICT機器は、学習支援、コミュニケーション支援、生活自立支援等幅広く利用されています。以下に、具体的なICTを活用した支援方法を紹介します。

1. 学習支援
 
(1)個別化された学習プログラム
学習用アプリやソフトウェア:知的障害者向けの学習アプリやソフトウェアは、個々の学習ペースに合わせた教育を提供します。視覚的な教材や、インタラクティブなゲーム形式の学習ツールが多く、特定のスキルや概念の習得を支援します。

マルチメディア教材:動画やアニメーション、イラスト、音声などを用いて視覚・聴覚的にわかりやすく紙では出来ない学習内容を伝える教材が活用できます。視覚的な要素が多いと理解が深まりやすく、学習意欲も向上します。
(例)高次脳機能バランサー
 
(2)特別支援教育用プラットフォーム
特別支援学校用のデジタル教材:特別支援教育向けのプラットフォームやデジタル教材が開発されており、これらを利用して教師は生徒の能力に応じた教育を提供できます。こうした教材は、各生徒の学習能力やニーズに応じて調整され、反復練習や視覚・聴覚的なフィードバックが含まれます。
 
(参考)特別支援教育教材ポータルサイト 国立特別支援教育総合研究所

2.コミュニケーション支援

(1)AAC(補助代替コミュニケーション)デバイス
AACアプリ:言葉でのコミュニケーションが難しい知的障害者のために、AAC(Augmentative and Alternative Communication)デバイスやアプリが使用されています。これには、「Proloquo2Go」や「Grid」などがあり、タブレットやスマートフォン上でアイコンをタップして意思を伝えられるように設計されています。これにより、コミュニケーションの障壁が低減され、より円滑な意思疎通が可能になります。
(例)PECS IV+
 
絵カードやシンボルシステム:シンボルや絵を使ったコミュニケーションツールが知的障害者向けに使用されます。デジタルデバイス上で使用することができ、感情やニーズをシンボルを通じて表現できるようになります。
(例)DropTap
 
(2)音声合成と音声認識
音声合成アプリ:知的障害者が音声合成を利用して自分の意見や要望を伝えることができます。シンボルや絵を選ぶと、それをアプリが音声に変換し、周囲の人々に伝えることができます。これにより、コミュニケーションの支援が進みます。
(例)指伝話
 
音声認識技術:音声入力が可能なアプリやデバイスは、簡単な発話を理解し、それに応じた行動を取ることができます。これにより、知的障害者はタブレットやスマートフォンを使って自分の意思を伝えることが可能になります。各デバイスの音声アシスタントを利用すればアプリの操作が理解できなくてもスマホやタブレットの操作が可能になります。
(画面アイコン例) 
 




3.生活自立支援

(1)スケジュール管理アプリ
視覚的タイムマネジメント:視覚的に理解しやすいスケジュール管理アプリが知的障害者の生活自立を支援します。たとえば、視覚的なタイマーやピクトグラムを使用して、日常のタスクを管理しやすくします。
(例)タスクスケジュール 
   ねずみタイマー 
   
リマインダーアプリ:薬の服用、食事、移動など、日常の重要なタスクをリマインダーで忘れることを防ぎます。
(例)お薬記録&アラーム:くすりの飲み忘れ防止と服薬管理 
 
(2)生活スキル学習
ビデオモデリング:知的障害者が特定の生活スキルを学ぶ際に、ビデオモデリングが役立ちます。具体的には、手順を視覚的に学習するために短いビデオクリップを見せ、料理、掃除、着替えなどの日常的な活動を示します。繰り返し視聴することで、行動パターンを学習できます。

タッチ操作でのサポート:KeynoteやPowerPointなどのプレゼンアプリ等を活用して、生活スキルの習得をサポートします。操作がシンプルで、視覚的フィードバックがあるため、料理や掃除、移動などの基本的なタスクをアプリを通じて学習することが可能です。

4.ソーシャルスキル支援

(1)ソーシャルストーリーアプリ
ソーシャルストーリー:社交的なスキルを向上させるために、特定の状況における正しい行動や対応を視覚的に示す「ソーシャルストーリー」を使うアプリがあります。こうしたアプリは、例えば学校でのルール、公共の場での行動、友人との会話の仕方などを教えるために使用されます。「Pictello」などのアプリが、視覚と音声を用いてシナリオを再現し、学習者に対話的に教えることができます。

5.就労支援

(1)オンラインプラットフォーム
eラーニング:知的障害者向けに特化された就労支援プログラムが、オンラインプラットフォームで提供されています。これにより、個々の能力に応じたスキルアップが可能となります。また、スキルアップの過程でのフィードバックもリアルタイムで得られるため、自己評価の向上にもつながります。

支援技術を活用した在宅勤務:知的障害者がICT機器を使用して在宅勤務に参加できるよう、支援技術を利用したプラットフォームも開発されています。簡単な作業の自動化ツールやサポート機能を活用して、デジタル業務をこなすことができます。

6.まとめ

知的障害者に対するICTを活用した支援は、学習支援、コミュニケーション支援、生活自立支援、ソーシャルスキルの向上、そして就労支援において幅広く役立っています。これらの技術は、知的障害者がより自立した生活を送り、社会参加を果たすための手助けを提供し、障害のある人々が自分の潜在能力を最大限に活用できるように苦手な部分をICTが補完しています。
音声入力や、音声出力、AIアシスタントなどを活用することで、文字や操作が苦手でもICT機器へのアクセスを比較的容易に実現できます。

◆高松 崇 
NPO法人支援機器普及促進協会 理事長
関西大卒。ICT・福祉情報機器コーディネーター。
民間企業のシステムエンジニアなどを経て43歳で独立。2011年、障害児・者の学習や生活支援用の機器を提供するNPO法人「支援機器普及促進協会」を長岡京市に開設した。
現在は京都市教委総合育成支援課専門主事なども務める。長岡京市在住。


■□ あとがき ■□--------------------------
オンラインこども発達支援セミナーを11月12日(火)、13日(水)に開催します。

次回は、11月22日(金)の予定です。

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